旅人の友達
その日は久しぶりのベッドに包まれ、死んだように眠った。
窓から射す光が瞼を通してうっすら見え、はっと目覚めた。
時刻は朝2刻。
さて、今日は国内の散策でもしようか。
階下へ降りて行くと、昨夜とはうって変わって静けさに満ちていた。
数名の客が朝食を食べている。カチャカチャと時折金属のぶつかる音が聞こえた。
「おはようライアン。朝食は食べて行く?」
「ウィアラさん、おはようございます。あ、お願いしようかな」
暖炉前の席につくと、隣の席にいた青年がこちらを見て手をひらひらさせた。
「やぁ、君も旅人? あんまり見ない顔だけど」
「うん、昨日来たばかりでね〜」
「ああ、ライアンって君のことか」
「? 知ってたの?」
「防犯用にね、部屋番号の下に名前が書かれるんだ」
「なるほど」
「俺はハルタカ。各国を旅しては書物として残しているんだけど、この国にはよく来るんだ。ま、渡り鳥みたいなものかな」
人懐っこい印象の青年だ。
華奢に見えてよく発達した筋肉がついており、自分の痩せた骨格が貧相に思えてくるほどだった。
彼の話からも、相当旅慣れているのだと感じた。
「お待たせ」
ウィアラがガゾサンドを運んできた。
ガゾは赤身の甲殻類だという。旨味の染み込んだパンを頬張りながら、彼と世間話を続けた。
「そういえば、ライアン君の出身はどこなの?」
「あ…その…」
言葉に詰まったその時、酒場のドアが、大きな音を立てて開いた。
光差す空間から、突如人影が飛び出してきた。
「…ここにもいない。ノヴァ、どこ行った!?」
血相を変えた青年が息を切らしながら佇んでいた。
ウィアラが彼をまぁまぁと窘める。
「ルシア。もう少しドアは静かに開け閉めして頂戴?」
ルシアと呼ばれた青年は、溜息を漏らした。
「昨日の夜から帰ってないんだ」
「まーたどっかで遭難してるんでしょ。ここには来てないわよ」
「そうか…。毎度毎度、国民とは思えないほどの方向音痴で困る…すまん」
やれやれと首を振りながら、彼はまた外へ出て行ってしまった。
「…何か、色々大変そうだね」
「…そうだね」
彼のお陰で、故郷のことを話すタイミングを失った。それは運が良かったとしか思えない。
「あ、俺そろそろ行こうかな」
話の続きを思い出されないうちに、腰を上げた。
「わ、俺もキャラバン商品で注文した商品があるんだった」
ハルタカも慌てて席を立ち、荷物を纏めた。
ふと顔を上げ、目が合う。
「——そうだ、今度飲まない?」
「あ…うん」
話の続きを覚えてないといいな、と願った。
じゃあまた、と酒場の玄関先で別れを告げる。
彼に背を向け、歩みを進めた。
陽が、昇り始めている。
※ノヴァ・ウィンドー君とルシア・ニーベルング君( @Alba_mizuchi )
そしてハルタカ・クロクシル君( @wachiricoalba1 )
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