マトラコロッケ
酒場に戻る頃には、陽は傾き沈みかけていた。
「あら、お買い物?」
ウィアラが忙しなくディナーの準備をしていた。
この国の入国管理をしながら酒場を切り盛りするなんて、余程気遣いが出来て実力のある女性なのだろう。
「うん。キッチン、借りてもいい?」
「仕込みは終わったし混むまで時間あるからね、どうぞ。…って、貴方料理するのね! うちも手伝って貰いたいくらいだわ」
「手が足りない時は手伝いますよ。シチューや服のお礼もしたいし」
「ええ、本当? ありがとう、団体さんの時はお願いしちゃおうかしら」
「喜んで」
「さて…」
塩漬けされたマトラという魚を塩抜きし、身を解した。茹でたポト芋や細切れのチーズを加え、衣を付けて揚げる。
その間に、旧市街の近くで採取した茸を使ってスープを作った。
ポル茸といったか。香りが良く、茸としての味もしっかりしている。
締めはデザート。
リズィに貰ったポム。切り込みを入れ、手作りバターを一欠片。蜂蜜を垂らし、オーブンへ投入した。
もう何年も握っていないナイフだったが、一人分なら意外といけるものだ。
「随分手際が良いのねぇ」
「まぁ、昔は50人分ほど作ってましたからね〜」