ライアンのお話

ワールドネバーランド エルネア王国 二次創作交流企画 「アルバ王国」のお話です。 沢山のキャラクターさん達をお借りしています。公開が嫌だという方は遠慮なく連絡してください。 いつもありがとうございます。

アルバ王国

「…ここなら、一旦大丈夫かな」

土砂降りの雨の中、ふらついた足取りで入国申請所を探す。


(酒場か…)


石畳の硬さが、底の薄くなった靴によく伝わった。

酒場の灯りが雨でぼやけながらも視界に入った。


(ああ、間に合わな——)


自分の倒れる音が、聞こえた気がした。



「…っ」

気がつくと暖かい部屋の中にいた。

今まで着ていたぼろぼろの服は脱がされ、代わりに旅人装束が着せられていた。


「気がついたかしら? 店の前で倒れていてびっくりしたわよ。ああ、着替えはその辺の男達に頼んでもらったから。安心して」

艶やかな黒髪を束ねた女性が立っていた。

周囲にはテーブルと椅子が並び、酒を嗜む人々が談笑している。

ようやく、ここが目的地だったのだと把握した。

「アタシはウィアラ。ここを経営しているの。王の命令のもと、入国許可もやってるわ」


「…ありがとう」

もう何日も食べていない。

いつも通りの笑顔を作るのが精一杯だった。意識が飛びかける。


「おっと、大丈夫? …やつれた顔してるわ。とりあえずベラスシチューでも食べなさい、今日はアタシのおごりにしとくから」


毒が入っていないか確かめる余裕もなかった。

頭を下げ、目の前に置かれたシチューにかぶりつく。


「しっかしアンタ、細いわねー。羨ましいわ」

はは、と笑って返した。


昔から中性的な顔立ちと言われきたが、好きでこんな容姿に生まれたわけではない。

とはいえ、親の顔も知らない為恨みようもないが。



入国申請書を書き終え、宿の説明を受けた。

空腹が満たされると心の余裕も出来るようだ。

「…以上よ。何かあったらいつでも聞いて頂戴」

「はいはーい、了解」


いつもの調子が戻ってきた。

勢いよく立ち上がり、ふらついて近くの男性にもたれかかった。

軽く睨まれ舌打ちされたが、いつものことだ。

「あっ、ごめんなさーい」


両手を合わせて謝りつつ、そそくさと酒場を出た。


雨の匂いが満ちた空気を胸に詰め込んだ。

先程男から盗った財布の中身は上々だった。


(さて、この国で何日もつかな?)